ある本を読んでいたら、森鴎外の小説の一部が引用されていました。 めったに外に出ない秀麿は、事新しくベルリンの電車と違ふ所を考へた。あっちでは座席が一ぱいになれば満員である。吊革は運転中に電車の中を歩く時掴まるために吊ってあるのだから、それを持って立ち留まると車掌が小言を言ふ。同じ交通機関が出来も、こっちのはなんとなく物足らない心持がする。洋行帰の人の中に、此心持を誇張して故郷を誼ふのなんのと云ふものの出て来るのは、面白くない現象ではあるが、何に附けこの物足らなさの離れないのを、全然抹殺することは出来ないと思ったのである。(森鴎外「藤棚」より) この文章は、キャパもないのにとにかく西洋文化を取り…