それほど大きくない窓があった。室内が薄暗いせいで、外の光がハレーションを起こし、窓の枠がトンネルの出口のように見える。その先に広がる風景は、工房の作業場の小さな石窓から見えていた景色とも、アルノ川沿いのぼくの部屋の窓からの眺めとも違い、もっと平坦な印象の、箱庭的な距離感のない世界だった。 梅ヶ丘・羽根木公園の小高い丘が眼前にある。学生時代の記憶と重なる懐かしい景色だったが、長くフィレンツェの石畳を見慣れてきたせいか、日本的な眺めに違和感を覚えてしまう。(辻仁成『冷静と情熱のあいだ Blu』角川書店、1999) こんにちは。先週、学生時代の記憶と重なる懐かしい本を再読しました。辻仁成さんと江國香…