序文・弘法大師の功徳 堀口尚次 衛門(えもん)三郎は、四国霊場にまつわる伝説上の人物。 天長年間の頃の話である。伊予国を治めていた河野家の一族で、浮穴(うけな)郡荏原(えばら)郷〈現在の愛媛県松山市恵原町・文殊院〉の豪農で衛門三郎という者が居た。三郎は権勢をふるっていたが、欲深く、民の人望も薄かったといわれる。あるとき、三郎の門前にみすぼらしい身なりの僧が現れ、托鉢をしようとした。三郎は家人に命じて追い返した。翌日も、そしてその翌日と何度も僧は現れた。8日目、三郎は怒って僧が捧(ささ)げていた鉢を竹のほうきでたたき落とし〈つかんで地面にたたきつけたとする説もあり〉、鉢は8つに割れてしまった。僧…