井戸から引き揚げた籠を開ければすぐに、小さな白い猫が顔を出した。 少し痩せてはいたが、人懐っこそうな青い目はやんちゃそうに光っていた。鼻先に指を差し出すと、白猫は急に胸に飛び込んできて、そのまま肩の上にのぼって頬をなめた。 「いい子だね。よく生きた」 白猫は返事をしなかった。 近くに持ってきたごみ袋を井戸に落とすと、少しかがんで落ちていた枯葉も井戸に入れた。マッチを取り出して、火をつけると、すぐに井戸に投げた。弧を描いて、井戸の底に落ちていく。深淵に赤い光が生まれた。 「おっとあぶない」 炎の遥か上で、白猫の首根っこをつかむ。彼は足を滑らせて、肩からずり落ちていくところだった。 「猫のくせに、…