ハヤさんの頭のなかに眠っている前世の記憶は、ふとしたひと言をきっかけに目を覚ます。前世では、江戸から明治にかけて生きていた「寸一」という行者だったので、 「そういえば、僕が寸一だった時のことですが……」 という前置きから、昔語りが始まるのだった。 ハヤさんと暮らしている私にとって、普段の会話のなかに突然、生き生きとした昔話が混ざりこむのは珍しいことではない。 今日も、買い物袋から食材を取り出しながら、 「このタマネギ、橋の欄干に飾ってある擬宝珠(ギボウシュ)、それともギボシだったかしら? あれにそっくり」 「そうですね、なんとも立派なタマネギだ」 「擬宝珠って橋だけじゃなくて神社やお寺でも見か…