あれからXX年、彼女はバスを追い抜いた――― 「諦めろよ。もう潮時なんだろうよ」 隣の椅子が突き放したように私に言う。人間の世界でいうところの「古株」に私も隣の椅子もなった。バスが作られて運行が始まってから、乗客のバス酔いによる嘔吐や寝汗、ペットボトルで汚されたり、重すぎる乗客にスプリングが耐えられず破壊され、それっきりバスからいなくなってしまった椅子も決して少なくない。椅子は定期的にメンテナンスがされているが、その中でも私達は最も摩耗が少なく珍しがられているらしい。 「ここの椅子は他と比べてきれいだよな」 「だよなあ、同じようにメンテしているのに」 業者がそう言いながらメンテナンスをしている…