これはコロナ禍以前に、箱根まで行った際に書いた短いエッセーだ。数年前のことだ。そんな日を振り返り読み返している。この世の人のつながりは、やはり不思議なものがある。私と加藤文子さんもそうだった。詳しい経緯は書かないが、加藤さんは私にとって忘れることができない一人なのである。それまで見たことがないほど白髪が美しい女性だった。こんな時だからこそ、旅のことを考える。 ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ 日曜朝の東海道線下りは空いていた。東京発の電車は1両に数人の乗客しかいない。だから、向い側の席に座った和服姿の女性がいやでも目に付いた。年のころ40数歳、理知的な顔立…