瘧病にわづらひたまひて、 よろづにまじなひ加持など参らせたまへど、 しるしなくて、あまたたびおこりたまひければ、 ある人、 「北山になむ、なにがし寺といふ所に、 かしこき行ひ人はべる。 去年の夏も世におこりて、 人びとまじなひわづらひしを、 やがてとどむるたぐひ、 あまたはべりき。 ししこらかしつる時はうたてはべるを、 とくこそ試みさせたまはめ」 など聞こゆれば、 召しに遣はしたるに、 「老いかがまりて、室の外にもまかでず」 と申したれば、 「いかがはせむ。いと忍びてものせむ」 とのたまひて、 御供にむつましき四、五人ばかりして、 まだ暁におはす。 やや深う入る所なりけり。 三月のつごもりなれ…