一章 黒江町の路地と、おちかの変わりよう 皐月の深川は、初夏の匂いが混じり始める季節でございます。黒江町から今川町へ抜ける細い路地を、おちかが軽やかに歩いておりました。近頃のおちかは、子猫を飼い始めてからというもの、以前のようなガキ大将気取りが影を潜め、どこか女の子らしい柔らかさが出てきたのでございます。とはいえ、あの子の好奇心は相変わらずで、「うちの子猫ね、しろとちゃとらとみけっていうの!」と、誰彼構わず話しかけては、嬉しそうに胸を張る。おちかは、胡蝶姐さんが贔屓にしている舟宿「舟善」の渡し場に入り浸り、船頭衆に混じって猪牙舟に乗せてもらったり、若内儀の波江様に団子をご馳走になったりと、まる…