霧のいと深き朝、 いたくそそのかされたまひて、 ねぶたげなる気色に、 うち嘆きつつ出でたまふを、 中将のおもと、御格子一間上げて、 見たてまつり送りたまへ、とおぼしく、 御几帳引きやりたれば、 御頭もたげて見出だしたまへり。 前栽の色々乱れたるを、 過ぎがてにやすらひたまへるさま、 げにたぐひなし。 廊の方へおはするに、 中将の君、御供に参る。 紫苑色の折にあひたる、羅の裳、 鮮やかに引き結ひたる腰つき、 たをやかになまめきたり。 見返りたまひて、隅の間の高欄に、 しばし、ひき据ゑたまへり。 うちとけたらぬもてなし、 髪の下がりば、めざましくも、と見たまふ。 「咲く花に 移るてふ名は つつめど…