音楽評論家。
1913年、東京生まれ。クラシック音楽の評論家として活躍。小林秀雄、大岡昇平、中原中也らと親交を持つ。いってみればあの時代の文壇の「最後の生き証人」と言えるかもしれない。
1982年に紫綬褒章を、2006年に文化勲章を受章。2012年5月に急性心不全のため死去。
彼の評論は、「感覚的」「エッセイもどき」と呼ばれることが少なくない。しかし著作を丹念に読めば、豊富な音楽的な知識と、楽譜に対する深い読みに裏付けられた上での「感覚的な」評論であることがわかる。
amazon:吉田秀和
最近、通勤電車の中でよく読むのは、吉田秀和。吉田秀和の著作は、音楽を聴く、あるいは絵を見るという行為をめぐる思索へと読者を誘う。 絵を見る、あるいは絵がわかる――この二つは同じことである――というのは、その画面を追体験しながら、再構成できることだ、と考える。私たちは、ある絵を見て、画家がどこから始め、どういう経路をとって画面をつくりあげていったかを追う。それが絵を見るという行為である。 (「なぜ、彫刻についてかくのか」より) どうせ批評は終局的には主観的なものであり、個人的関心を土台にしてしか成立しない。純粋に客観的で普遍的な批評などというものはないのである。人は、ただ、主観的な意見でありなが…
晴。NML で音楽を聴く。■バッハの平均律クラヴィーア曲集第一巻 ~ BWV855 - BWV859 で、チェンバロはルカ・グリエルミ(NML、CD)。 新海誠監督の『天気の子』を昨晩見て、でネット検索してみたら、検索ワードに「気持ち悪い」というのが第一に出てきてちょっと驚いた。それと関係するかも知れないのだが、わたしは新海誠監督のアニメは結構見ている筈だけれど、いつも思うことがある。というのは、(自分の身近な人間が世界や宇宙の運命と直接関わっているという)いわゆる「セカイ系」な上に、ヒロインの女の子がいっつも「お人形さん」なこと。キャラクターが生きている、血が通っている感じがしない(『君の名…
3月に2度、綾目さんの小林論について書きながら、ゼミのための準備・残された問題に関わる「論争」の長期化などが続き、すぐにまたゼミがあって準備と事後処理があり、ブログ更新の話題が溜まっていたり・今や連休中の釣り部の人数確認と宿探しに追われて落ち着かないけど、「その3」を記してまとめておきたいと思う。綾目さんに礼状代わりにブログ記事をお送りしようと思いながらも、遅きに失しているからネ。 小林秀雄論だけにあまり興味のある人は多くはないと思うけど、1つ訂正、というか保留しておきたい記事があり、それは「その2」で鹿島茂の小林本を目次だけで読む価値の無い本だと記してしまったものの、信頼するヒッキ―先生が読…
www.chuko.co.jp 岡田暁生著『音楽の聴き方 聴く型と趣味を語る言葉』中公新書 2009 これはよい本です。音楽に言葉を失った経験のある方なら誰であろうと読むに値する名著です。吉田秀和賞もうなずける。 本書は、まぁ書名のまんまですが、音楽の聴き方と言葉の関係について書かれた本です。ただ聴いて満足して終了、で終わらせないための知恵がつまった本です。頭からお尻の参考文献まで余すところなく面白いですが、個人的には第二章「音楽を語る言葉を探す――神学修辞から「わざ言語」へ」がよかったです。本章のテーマは「音楽の語り方」です。音楽について言葉を費やすのは、やったあるいはやろうとしたことのある…
昨年はベートーヴェン・イヤーであったが(生誕250年)、あいにくのコロナ禍で休日の外出もままならず、コンサートへは一度も行けなかった。岡田暁生氏は、「コンサートやライブが自粛されていた間、録音音楽ばかり聴いていたせいで逆に、生の音楽における背後のかすかなお客たちの気配やざわめきが、いかに音楽を生き生きと映えさせるための舞台背景であったか、改めて実感した」(『音楽の危機―《第九》が歌えなくなった日』中公新書2020:28-29)と書いており、これにはまったく同感であった。 しかし「録音音楽」というのは、自分の好きなときに好きなだけ、居ながらにして何べんもくり返し聴けるという利点があるわけで、夕ま…
曇。昨日某SNSを見ていて、それから既にフォローを外しているある有名知識人のタイムラインをひさしぶりに覗いてみた。また、別の、これもいまは読んでいない有名ブロガーのブログもついでに覗いてみた。異様な気持ち悪さを感じながら、いろいろ思った。日本人のかしこい人の文章は、何でこんなに気持ちが悪いのか。ま、「気持ちが悪い」というのはどうとでも取れる言葉で、また説明もむずかしい。こいつ、気に入らないのをただ disっているだけ、そっちの方が気持ち悪いわと思われるかも知れないし、あるいはそもそもオレはわたしはそんなことは感じないといわれる人がほとんどだろう。わたしもこれ以上明確化できない。だから何だである…
決定版 鳥獣戯画のすべて発売日: 2021/03/11メディア: 単行本The First Book of Fashion: The Book of Clothes of Matthaeus and Veit Konrad Schwarz of Augsburg発売日: 2021/04/08メディア: ペーパーバックAffects in 21st-Century British Theatre: Exploring Feeling on Page and Stage発売日: 2021/03/12メディア: ハードカバーナチス絵画の謎――逆襲するアカデミズムと「大ドイツ美術展」作者:前田 良三発…
香港の選挙制度変更でに余念のない大公報。中央政府的には排除したのはあくまで国家体制揺るがす乱暴派であつて穏健民主派を取り込みたいところだらう。1997年までの青写真でも穏健民主派育つ前提での普選実施であつた。だがそんな余地などなく土共体制派か反政府派といふ絶望的な二極分裂。 白のアリストロメリアはお正月用にと年末に仕入れたものがまだ辛うじて咲いてゐる。切り花にしてしまつたのだから最後の花びらが枯れるまで大切に愛でてあげないと。 悪天候のなか家人とスズキ自販にこのたび購入のラパンを受取りにゆく。自動車運転に興味もないので、まぁ県内を走れる程度で良い。遠出して成田空港か東武動物公園くらゐまでかしら…
前本利彦 「古樹桜花」 30号 新しい年を迎えた。一月も二月も私は相変らず忙しく ゆっくりと考えるいとまも無いままに過ごした。 十二月は暖く 雪の無いお正月になるのかと思ったら 新しい年を迎える頃には雪が降り 氷点下になり 震えて暮らした。外には一歩も出られなかった。 この冬は木枯らしが吹く。連日連夜悲痛な声で森を駆け回る。何がそれ程悲しいのか。 お正月と言っても 私達はいつもと変わらない。門松は冥土の旅の一里塚である。めでたくもあり めでたくもなしとはよく言ったものだ。年とともにリアリティを増す言葉である。 窓から見える白い森はまぶしくて 私は目を閉じる。遠くで鹿が啼く。前本が常日頃言う抑制…
どうしてストラヴィンスキーは作風を変えたのか、という不躾な問いから始めたい。 20世紀最大の作曲家、イーゴリ・ストラヴィンスキー。《火の鳥》、《ペトルーシュカ》、そして《春の祭典》、わずか3年の間に発表された3作のバレエ音楽によって西洋音楽の未来に鮮やかな曙光をもたらし、20代にして芸術界の頂点に登りつめた男は、「音楽のこれから」を担うアイコン的な存在として、芸術の都、パリで喝采を浴びるのだった。 しかし、《春の祭典》から7年後に発表されたバレエ作品《プルチネルラ》でストラヴィンスキーが提示したのは、未来への曙光ではなく、200年ほども前の作品を"編曲"するという懐古の眼差しだった。 「新古典…
検討委、非公開。圧力を懸念。 https://www.asahi.com/articles/ASP2L6Q7SP2LUTQP01M.html 何日か前の本稿でこの度の「森騒動」で功績があるとすればスポーツ界と言えども所詮政治権力とは無縁ではいられない事を白日の元に晒してくれた事と指摘したが、IOC会長にして歴代通じて最強の柔道家と言われる山下氏があっさり認めてしまった。 音楽評論家の故吉田秀和氏が横綱双葉山を「どんな世界にもある、理想形というものに一番近付いた人」と評したが、双葉山とて生涯無傷という訳ではない。戦後の騒乱期、新興宗教に走り、取り締まりの警察と大騒動を起こしたことは後に「悲しいか…
起床 フルトヴェングラー・ベルリン・フィル録音集(1942-1944 vol. 2) 起床 6時過ぎ。やはり家に蒸留酒を置いておくと飲みすぎてしまう。昨日の夜の強烈な眠気もそこに敗因があろう。繰り返しの気づき、学習のしなさに関する反省。筋トレ。背中、腹筋。昨日転んで打った肘がめちゃくちゃ痛い。 5分トランポリン。 風が強くベランダの植木鉢が倒れる。一個、空の植木鉢が倒れて割れてしまっていた。 昼食後、Aの誕生日なので花束を買いに行く。Clubhouseで薔薇の花束には本数によって意味がある、と教えてもらっていた。 仕事を終えてヱビス。帰宅したHがレコードを聴きたがったのでZガンダムの主題歌の7…
ショパンの「24の前奏曲集 作品28」を紹介します。 この曲集は、前奏曲とあって比較的短い曲で構成されています。また、ショパンが敬愛していたというバッハの「平均律クラヴィーア曲集」から想を得たと考えられる、個々の曲を24の異なった調性で作るという方法がとられています。 ただし調の配列は、平均律が同主短調を入れてハ長調から半音ずつ上がっていくのに対して、この作品は、平行短調を入れてハ長調から5度ずつ上がっていくように作られています。 個々の曲を抜粋して演奏することもありますが、おそらく全曲を連続して演奏することを想定して書かれているように思います。 一曲一曲が、ミクロコスモスと云うにふさわしい、…
「港人幸有内地疫苗」つまり「内地のワクチンがある香港市民は幸せ」。世界的にワクチン需要高まるなか内地製のワクチン供給されるのだから中央政府をありがたく思へ、愛国心をもてと大公報。今日から英国の「5+1」の英国居留申請開始で「90後」つまり1990年以降の生まれで修士号、博士号もつ若者が厨房で働く仕事でもと渡英と蘋果日報。 茨城県内の公共施設は11都道府県に対する緊急事態宣言に準ずる形での県独自の緊急事態宣言で18日から来月7日まで休館となつたが水戸芸術館はすでに切符販売してゐる催事のみ当日限定会館で実施継続。 昨年春から演奏家の来演が難しくなるなか「せめて名演をレコオドで聴かうぢゃないか」とい…
オペラの終焉: リヒャルト・シュトラウスと〈バラの騎士〉の夢 (ちくま学芸文庫)作者:暁生, 岡田発売日: 2013/12/10メディア: 文庫シュトラウスを聞く日が私にもくるのだらうか。クラシック極上ノート (単行本)作者:渡辺 和彦発売日: 2003/09/12メディア: ペーパーバックマーラー (河出文庫)作者:吉田 秀和発売日: 2011/03/04メディア: 文庫フルトヴェングラー (河出文庫)作者:吉田 秀和発売日: 2011/12/03メディア: 文庫バッハ (河出文庫)作者:秀和, 吉田発売日: 2019/03/06メディア: 文庫グレン・グールド (河出文庫)作者:秀和, 吉…
『ニーチェ全集第10巻』『ニーチェ全集第10巻』「第二論文〈負い目〉〈良心の疾しさ〉およびその類のことども」393.負い目の感情や、個人的責務の感情はすでにわれわれが考察した様に、その起源をば、およそ存在するかぎりの最古の最原始的な個人関係のうちに、すなわち売り手と買い手、債権者と債務者という関係のうちにもっている。この関係のうちではじめて個人が個人と相対し、ここではじめて個人が個人と比量し合った。この関係が多少なりとも認められない様な低度の文明というものは、まだ発見されてはいない。値段をつける。価値を見積もる。等価値を考え出す、交換する―これら一連のことは、ある意味ではそれが思考そのものであ…