音楽評論家。
1913年、東京生まれ。クラシック音楽の評論家として活躍。小林秀雄、大岡昇平、中原中也らと親交を持つ。いってみればあの時代の文壇の「最後の生き証人」と言えるかもしれない。
1982年に紫綬褒章を、2006年に文化勲章を受章。2012年5月に急性心不全のため死去。
彼の評論は、「感覚的」「エッセイもどき」と呼ばれることが少なくない。しかし著作を丹念に読めば、豊富な音楽的な知識と、楽譜に対する深い読みに裏付けられた上での「感覚的な」評論であることがわかる。
amazon:吉田秀和
NHK-FMで、毎週日曜日の朝、「名曲の楽しみ」という番組があった。 吉田秀和さんが、もごもごと、独特の口調で話し、その放送は30年も続いていた。 中でも、「モーツァルトの音楽と生涯」は17年続き、その数年を、吉田さんの穏やかな、そして誠実な話しぶりとともに、自分も楽しめた。 YouTubeの「吉田秀和の生涯」的番組を視聴すれば、吉田さんがいかに微笑ましい人であったかが伝わってきて、じんわり効いてくる。 一言でいって、こんな表現で申し訳ないが、アナログの人だったと思う。「アナログを楽しんでいた」というのが、正確なところか。 いっぱい、レコードやCDを聴くのが仕事なのに、そのオーディオ機器には、…
好きではない、むしろ苦手だな。そんな思いはないだろうか。 それは国民楽派と呼ばれる音楽だった。19世紀中ごろから20世紀にかけてのヨーロッパではドイツ・ロマン派の影響を受けながらも自民族に継承されていた音楽や伝説を反映させた民族主義的な音楽が出てきた。東ヨーロッパからロシア辺りの音楽がそれにあたる。バッハに始まりモーツァルトからブラームス、ブルックナーに至るまでドイツ・オーストリアの音楽に傾倒したが、国民楽派は少し違うなとおぼろげ気にわかっていた。何か香りがするな、と中学生のころから思っていた。それを自分は「スラブの節回し」と呼んでいた。ゲルマン民族ではないスラブ民族の音楽だ。なぜ彼らからはそ…
読解力があるうちに、この人のものをもっと読んでみたかった。基礎教養があまりに足りなくて、果せなかった。 とある吉田秀和評に、こんな一節があった。音楽の吉田秀和、美術の高田博厚、文学の小林秀雄。三人の文章を、たんに音楽論・美術論・文学論として読むべきではない。ジャンルの垣根を越えた芸術思想論・哲学論として読むべきだ、と。高田博厚と小林秀雄はすでにわが読書範囲に入っていたから、いっこうに不案内だった吉田秀和という名に、新たに強烈なスポットライトが投じられた想いがした。 志の背丈が高い、怖い人を想像した。だが NHK 教育テレビに出演して音楽解説する姿は違った。白髪混りの長髪姿に含羞ただよう温厚な表…
好きな西洋近代画家はと問われれば、ロートレックだ。ゴッホでもルノワールでもない。 トゥールーズ一帯を領地とする領主の息子だった。貴族の家柄である。幼少期に落馬するなど二度の大怪我で脊椎損傷し、下半身の成長が止った。躰の三分の二が上半身という矮人である。貴族邸の跡取り美丈夫の可能性が塞がって、父親はさぞ落胆したことだろう。 パリへ出て、遊興の巷に身をひそめた。酒に溺れた。当時大盛況だったキャバレー「ムーランルージュ」に入り浸った。相手になってくれた女性といえば、踊子や歌手それに娼婦たちだった。細やかな思いやりから好かれはしたが、恋愛だの同棲だのに発展すべくもなかった。庶民には縁遠い地方貴族の御曹…
吉田秀和による1983年のホロヴィッツの批評全文を初めて読む。読み終える頃には少しばかり目頭が熱くなった。www.asahi.comクラシック音楽批評はオーディオ批評と似たようなところがあって、評者のポエムに陥りがちな側面があると思っているのだけれども(だからといって全てが読むのに値しない、というわけではもちろんない)、氏の文章は的確な表現を用いて的確に評している。この文章はもっと早くに読んでおくべきだった。批評を記すまでの蓄積ももちろんのこと、目の前にあった出来事、事象、演奏を、自慰に陥らない文章として提示する、その姿勢とペンの強さに感銘を受けた。もちろん自分が氏の真似事をするような文章を記…
日本を代表する音楽評論家の吉田秀和さんの初期著作の文庫新刊を読み、改めて学びがありました。 彼のドキュメンタリーを観たとき、締め切りが近づく中で、ペンを握る手が汗で滑りながら深夜から朝方までかけて脱稿した旨の回想がされていました。その時に書いていたのがこの著作だったそうです(あとがきにもこの事は書かれていました) クープランに始まり、当時の前衛であったショスタコーヴィチまで66曲がとりあげられています。 書かれた年代が1950年代初頭という事もあり、ヒンデミットやオネゲルも存命、そして後年の彼ならば取り上げないであろう―注文仕事、ビギナー向けの作品紹介という側面もあるでしょうが、リストのハンガ…
今号をもって休刊となる本日発売のレコード芸術を購入。 いつもより多めに入荷しているようで、通常の倍くらい在庫がありました(さすがに発売当日に完売などという様子は無かったです) ペラペラと中身を見ましたが、[特集1]はじまりの交響曲ー何故か「交響曲の父」ハイドンとメンデルスゾーンが入っていません。両曲共に個人的に好きな作品なのですが。あとニールセンも。 せっかく最終号に「はじまり」を持ってきた意図を述べているのですから、各作曲家の交響曲の「はじまり」への意気込みが体系的に解る特集になっていればと・・・。 それにしても71年の長きにわたり、企画・編集・寄稿など歴代の編集者、評論家など出版に携わった…
河出文庫2011 吉田秀和没後10年に出た新装版。 今や音楽評論家は皆無といっていい。クラシックコンサートの下調べで批評を探してみても、ほぼほぼ絶賛する記事。どんな一流でも出来の悪い回はあるはずなのに、ほとんど見当たらない。これで良いのかと思ってしまう。聴くほうの好みの問題で決して片付けられない、知識と感性に溢れた評論。 フルトヴェングラーの演奏については読んで、実際に音源を聴くのが一番分かりやすい。大きく変わるテンポがその特徴だということだけ書き留めておく。 "フルトヴェングラーのケース"では音楽的な面以外のところが考察されている。そして最後の丸山眞男との対談でもそのあたりについてがテーマに…
気温摂氏15.3/23.0度。曇のち晴。天気予報はアテにならず。 早晩に会席の約あり。泉町2の〈心まい〉。このコロナ禍にあつて家人か誰か極親しいお人と差し向かひで外飲みはあつても、四、五人で卓を囲むこともなく思ひ返せば丁度2年前に或る集まりで焼き鳥屋に行つて以来。水戸のかつての繁華街の中で3階だてのビルの裏手にひっそりと佇む戦後の民家を改造。アタシにとつては地元も地元。上手に内部を改造してなかなか風情あり。風通しも良いが今どき全面喫煙可でやはり喫煙客が多くタバコ臭が流れ放題にはまことに閉口。 この隣で今は駐車場になつてゐるところが元の川又書店。水戸で明治5年創業の大店の書店。今でも水戸駅ビルと…
陰暦二月十九日。気温摂氏5.5/12.8度。晴。春分の日。 水戸市立図書館(美和図書館)が企画した歴史講座「水戸市立図書館デジタルアーカイブで見る水戸の城下町」は当初2月5日に(市立図書館ではなく)県立歴史館で開催が予定されたが水戸市の特色あるマンボウで公共施設の土日利用不可となり水戸市内の県立の施設は歴史館も含め通常通り開放されてゐたが、この講座は延期に。それが本日開催。講師は茨城大学名誉教授の(ブラタモリ水戸編にも出演されてゐた)小野寺淳先生(研究者紹介-茨城大学)。歴史地理学が専門で水戸の城下絵図が実測によるもので現在の地図の上に当時を復元。かうした精緻な復元は精度の高い城絵図が当時作成…
編集 9月23日誕生日の全国35万人の皆さんおめでとうございます (拙句)再会のかなはぬ母や曼珠沙華 雅舟 【花】ヒガンバナ 【花言葉】再会【短歌】あかあかと彼岸花咲く畦道でこんど会う日の約束ありき 鳥海昭子 秋のお彼岸のころに咲くヒガンバナは曼珠沙華というすてきな別名もあります。ヒガンバナの咲く道で、「再会」を願いつつ別れを惜しみました。遠い日の記憶です。 【季語】 彼岸花 曼珠沙華 【俳句】 曼珠沙華抱くほどとれど母恋し 中村 汀女 つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口 誓子 曼珠沙華散るや赤きに耐へかねて 野見山朱鳥【三行詩】万葉植物「いちし」は諸説紛々 彼岸花とみる牧野富太郎説を支持したい…
2024年9月20日時点での既刊及び刊行予定の講談社文芸文庫全1,317点(日本文学1,245点/海外文学72点、ワイド版を除く)をあげた。文庫の整理番号順に従って表記(一部変更あり)した。編者、訳者は一部を除き割愛した。 阿川弘之『舷燈』 阿川弘之『青葉の翳り 阿川弘之自選短篇集』 阿川弘之『鮎の宿』 阿川弘之『桃の宿』 阿川弘之『論語知らずの論語読み』 阿川弘之『森の宿』 阿川弘之『亡き母や』 阿部昭『単純な生活』 阿部昭『大いなる日/司令の休暇』 阿部昭『無縁の生活/人生の一日』 阿部昭『千年/あの夏』 阿部昭『父たちの肖像』 阿部昭『未成年/桃 阿部昭短篇選』 青柳瑞穂『ささやかな日本…
『ハルくんの音楽日記』という、クラシック音楽のCDなどを扱うブログがある。私もこのブログに音楽関係の記事を書く時にかけるネット検索でよく引っかかる。2008年8月のサイト開設から16年、先日ブログのページビュー数が1000万PVに達したとのことだ*1。西洋の古典音楽のようなマイナーな分野でこれだけのPV数に達するのはたいへんなことだ。弊ブログもクラシック音楽に特化した記事はアクセス数が伸びない。更新数が平均で月平均で3件あるかどうかのブログであるためもあって、数年前に開設したこのブログの総アクセス数は17万ちょっとしかない。メインブログの方は、今のはてなブログになってからはかつてほど多くないが…
曇。 NML で音楽を聴く。■ハイドンの交響曲第八十八番 Hob.I:88 で、演奏はオーケストラ・アンサンブル金沢(NML、CD)。コンサートマスターは安永徹さん。もしかしたら地味だと思うかも知れないが、めったにない一流の演奏。■シューベルトのピアノ・ソナタ第二十一番 D960 で、ピアノはディナ・ウゴルスカヤ(NML、CD)。■モーツァルトの 二台のピアノのためのソナタ K.448 で、ピアノはマルタ・アルゲリッチ、アレクサンドル・ラビノヴィチ=バラコフスキー(NML、CD)。これまでに何度も聴いてきた、息ぴったりの躍動するすばらしい演奏。この二人は当時恋人同士でもあったのだろうと、吉田秀…
黄昏の光 吉田健一論 松浦寿輝 著 松浦寿輝氏は、十代後半に初めて出会ってから、吉田健一の文章を五十年以上にわたって読み返してきたといいます。氏は一九八七年、三十三歳の時に吉田健一『ヨオロツパの世紀末』筑摩叢書版に解説「視線と記念碑」を寄せることになりますが、それ以降、吉田についての批評やエッセイを幾篇も執筆し、対談や講演を行ってきました。 本書はそのすべてを一冊に収めたもので、「冬枯れの池」(二〇一五年発表)に本年(二〇二四年)付記として加えられた文章は七十歳の著者によるものです。 この間一貫して変わらないのは、吉田が描く「黄昏の光」への関心です。本書の中で繰り返し引用される短篇小説「航海」…
ねんがんのヴァイオリンをてにいれたぞ! そう、ヴァイオリンを買った。生まれて初めて楽器を買った。 ヤフオクで勢いで中古のヴァイオリンを買ってしまったのだ。鈴木バイオリンというメーカーのもので、未だにヴァイオリンが自分の手元にあることが信じられない。 きっかけは、Youtubeでたまたま出てきた、amazonで1万円のヴァイオリンを弾いてみう、という動画だった。プロのヴァイオリニストが1万円で買ったヴァイオリンを弾いて、そんなに悪くないですねーと言っている動画だった。 youtu.be つうか、ヴァイオリンって1万円で買えるのかよと驚いた。実際にamazonを検索してみると、そのくらいの値段で確…
毎週日曜日は、この一週間に週刊誌や新聞などの書評に取り上げられた旬の本を紹介しています。書評内容については各誌・HPなどをご覧ください。 今週の書評本 (9/2~9/8 全85冊) *表示凡例◆掲載された媒体: 発行号数 掲載冊数書籍タイトル 著者.編者 出版社 税込価格 書評掲載回数(②回以上を表示) ◆サンデー毎日「遠回りの読書」: 9/15 号 2 冊つげ義春が語る 旅と隠遁 つげ義春 筑摩書房 2,530 ②日本鉄道廃線史 消えた鉄路の跡を行く 小牟田哲彦 中公新書 1,155 ◆女性自身「今週のあなたを開く本」: 9/17 号 4 冊ツミデミック 一穂ミチ 光文社 1,870 ⑥ガー…
「涼宮ハルヒ」シリーズが全巻88円均一セール⇒https://t.co/hTx9NP9IEvこの夏をエンドレスエイトしていきましょう!! pic.twitter.com/i09JdhgIDx— ドクショと! (@kusatu9) August 16, 2024 涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)作者:谷川 流KADOKAWAAmazon涼宮ハルヒの溜息 (角川スニーカー文庫)作者:谷川 流KADOKAWAAmazon涼宮ハルヒの退屈 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)作者:谷川 流KADOKAWAAmazon涼宮ハルヒの消失 「涼宮ハルヒ」シリーズ (…
RISING SUN FESTIVALの準備の一環で1,000円カットでサッパリしてきた。珍しく混んでいた上にワンオペで忙しそうだったのに、いつもより一段階細かく注文してしまった。心なしか首にタオルをキツく巻かれた気がした。 スーツケースのパッキングを終えた。 音楽は作業用程度でしか聴かなかった Parannoulは過去イチ分からないアーティストであるかもしれない 図書館に本を返してきた。だらだらと4週間も借りたのに、実際に本を開いた日数は合算して1週間程度。途中から読書メモに完璧主義癖が発動して読みたいのに読めなくなったのダルすぎ。ほんとに直したい。ちなみに読んだ本は、千葉雅也『勉強の哲学』…
(8/2)ひとまず100点選書。第一弾の選書なので推薦本には頼らず。蔵書とアマゾンのブックリスト、これまでの読書経験と知識を駆使して、読みたい本を直感で選んだ。 今のところ順番はランダムだ。3500の選書リストが完成するまでには適切な分類法を見つけようと思う。その際、選書やリスト作成におけるルールも付記する(表紙画像は載せない、アマゾンや出版社ページへのリンクは貼らない等)。 (8/3)200点選書。 (8/4)300点選書。 (8/5)400点選書。そろそろ分類しないとね。日本十進分類法を参考にする予定。 (8/9)500点選書。 (8/10)600点選書。 (8/11)700点選書。 (8…
曇。 朝から蝉時雨。 NML で音楽を聴く。■ブラームスのピアノ協奏曲第二番 op.83 で、ピアノはエミール・ギレリス、指揮はオイゲン・ヨッフム、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(NML)。一昨日この曲をブロンフマン+ウェルザー=メストで聴いて、頭にこびりついていたので、超一流の演奏でまた聴いてみた。この録音は三年ほど前にも聴いているようだが、まるで初めて聴くような感じがした。この曲は第一番(op.15)に比べ、明るく楽天的なそれだといわれることが多いが、今回聴いてみて、充分もの悲しくも聴こえる曲だと思った。曲の調性は長調だが、第一、二楽章など、全体の半分以上が短調で書かれているのではない…
Masculin:というわけでございます、早いもので。 Féminin:…本当にね。また同い年のふたりの偉大なマエストロがちょうど十年違いの同じ日に亡くなったなんて。 M:こないだもお話しましたけど、二十年前の今月7月は僕にとって大変なひと月で。 F:そうね、前月末にお母様が倒れて救急車を呼んだところから始まって、入院から転院といろいろな手続きをたった一人でやってらしたんですものね…また大変な猛暑だったし。確か7月20日に東京で観測史上最高の39.5℃を記録したのよね。 M:まあ猛暑はあれ以来年中行事ですけどね。そんな病院と家をひっきりなしに行ったり来たりしていたある日、束の間の帰宅をして届い…
Féminin:今日はレオシュ・ヤナーチェクのお誕生日ですって。 Masculin:つい先月、カタラーニも同じ生誕170年だったんですよね。ところが「ラ・ワリー」以外に取り立てて作品もないから映画「ディーバ」の話題に終始しちゃって。 F:その点ヤナーチェクはいろいろ語るべき作品が少なくないわね。まずは「利口な女狐の物語」でしょう、やっぱり…もちろん覚えてるでしょ、超絶記憶マシーンのアナタですから。 M:何を今さら…あれは’78年の11月30日、二期会による日生劇場での初演でした。三回公演の三日目で。正確に言うと前年に大阪支部が取り上げてたんで東京初演だったんですけど。 F:その少し前に貴方から…
2023年10月20日第1刷発行 表紙裏「『窮境を自分に乗り超えさせてくれる〈親密な手紙〉を、確かに書物にこそ見出して来たのだった』。渡辺一夫、サイード、武満徹、オーデン、井上ひさしなどを思い出とともに語る魅力的な読書案内。自身の作品とともに日常の様々なできごとを描き、初めて大江作品に出会う人への誘いにもなっている。『図書』好評連載を収録した、未来に向けての一冊。」 大江さんに親しい人物としてエドワード・サイードを始め、渡辺一夫、武満徹、伊丹十三、大岡昇平、加藤周一、野上弥生子、小澤征爾、吉田秀和、井上ひさしらが多数登場する。短いエッセイの中で度々登場する長男の光さんも大江さんにとり特別の存在…