「品川猿」とは、村上春樹が『東京奇譚集』(新潮社,2005,9)に書き下ろしとして、巻末に収録した短編小説。自分の名前を忘れる主人公が、カウンセラーに導かれて、その原因が究明される。名前を盗む習慣を持つ「猿」が品川区の地下道に住んでいる。「猿」は、名前を盗むと同時にその人の「暗い闇」を引き受ける。「品川猿」は、名前を主人公に返す替わりに、彼女のネガティヴな闇を伝える。本人は、無自覚なまま心の底にしまい蓋をしている「心の傷」を、「品川猿」が教えてくれる。
転じて、その人の真実をいかに、その人を傷つけることなく伝えるかが「品川猿」問題。文芸評論家・加藤典洋が、村上春樹『品川猿』からヒントを得て、「品川猿」問題となった。