自分であることを気づかれないようにして去ろうと 源氏は思ったのであるが、 だらしなくなった姿を直さないで、 冠《かむり》をゆがめたまま逃げる後ろ姿を思ってみると、 恥な気がしてそのまま落ち着きを作ろうとした。 中将はぜひとも自分でなく思わせなければならないと知って 物を言わない。 ただ怒ったふうをして太刀《たち》を引き抜くと、 「あなた、あなた」 典侍は頭中将を拝んでいるのである。 中将は笑い出しそうでならなかった。 平生|派手に作っている外見は相当な若さに見せる典侍も年は五十七、八で、 この場合は見得《みえ》も何も捨てて 二十《はたち》前後の公達《きんだち》の中にいて 気をもんでいる様子は醜…