外回りから戻った私は自分の席に着いて、床に荷物を降ろした。 「どう? 成果はあった?」古希に差しかかった老媼の編集長が訊いた。 「いえ、一件も取れませんでした」私が苦しげに答える。自転車で営業してきたからだ。 「そんなんじゃ、新聞でなくなっちゃうよ。私は会議があるから、本館に戻りますからね」湯場編集長はサンダルに足を突っかけると、ドアを開けて出ていった。 「成果なし、ですか」還暦を過ぎた、正木さんが換気扇の下から出てきた。「この程度の広告の枠を出し渋るとはねえ。うちってそんなに信用ないのかな」 「広告の営業がこんなに大変だとは思いませんでした」 「まだ社会人一年目でしょう。広告業は過酷ですよ。…