1 「なんもないところに、何かがポツンてある感じがしっくり来てる」 千瑛と署名の入った椿を描いた水墨画を見入り、涙を流す大学生の青山霜介(そうすけ、以下霜介)。 神社での水墨画の展示会の設営のバイトに来ていた霜介は、西濱湖峰(にしはまこほう、以下湖峰)に促され弁当を食べに行くと手を汚してしまい、初老の男性にハンカチを渡された。 それが、著名な水墨画家、篠田湖山(こざん、以下湖山)であることを、湖山が揮毫会(きごうかい)の舞台に上がり、紹介され初めて判った。 見事な筆さばきに惹きつけられた霜介は、思わず立ち上がって目を輝かせる。 作品を描き終え、万雷の拍手を浴びる舞台上の湖山が、霜介に「私の弟子…