英語では「Borderline Case」。邦訳では「境界線例」とも訳される。
現在では俗に「ボーダー」とも呼ばれるが、これはDSM-III[1980年]から採用された「境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)」をも指している事が大変多いので、この領域の俗名・名称・専門用語の使用と発言には注意を要する。
一般に「DSM-III[1980]」の普及以後、いち診断名である「境界性パーソナリティ障害(DSMの旧訳:境界性人格障害)」と混同のされ方が甚だしいが、実際はこの診断名の母胎となった「境界例概念」という理論構築がなされている、裾野の広い疾患概念である。
この疾患概念の歴史は古く、いくつかの変遷を経ている。その為もあって議論の絶えない概念であった。
(一般書には触れないが)学術文献を読む際、特にここ十年からは「境界例」と「境界性パーソナリティ障害」の言葉の使い方を文脈で読み取る必要があり、両者の違いが分からない程度の認識不足の場合は、区別がつかない事も多いと思われる。この意味で、現在でも混乱している疾患概念と言えるかもしれない。
単純に解説する場合、この概念で挙げられる主な理論構築者達は
・O.カーンバーグ(「Borderline Personality Organization:境界パーソナリティ構造」の理論構築や境界例の複雑な判断テスト「半構造化面接」の考案など)
・J.F.マスターソン
ら精神分析学対象関係論学派に通じている精神科医を主に、「J.G.ガンダーソン、グリンカー、シュミッドバーグ(シュマイドバーグとも訳されている)、スピッツァ、その他多く」の研究者・精神療法家・精神科医らが治療・研究・理論構築に関わっている。
この概念はまた変遷を経ている為に研究者らによって異なる見解が多く、少なくとも20世紀中期〜後半では論争が絶えなかったのであるが(20世紀後半に「自己愛」の研究で「自己心理学」を確立した米国の精神科医、ハインツ・コフートもこの論争に関わった。この研究はDSM-IIIからの診断名「自己愛性パーソナリティ障害」と繋がっている。この事からもこの概念は自己愛とも隣接及び重なる部分が無視出来ない疾患概念であることが察せられる。)、1980年にこれまでのDSMとは異なる「操作的診断体系」のDSM-IIIにこの疾患概念の『8つの顕著な症状』が「診断項目」として採用され、「Borderline Personality Disorder(境界性人格障害)」と命名された事(「Borderline」の名を入れたいという働きかけの経緯があったとも言われている)により、後に臨床現場を始めとした領域で、新たな議論のもつれや錯綜を担うことになったとも言われている。
現在の少なくとも一部の専門職までもが犯している「境界性パーソナリティ障害」との安易な混同の甚だしさは、ここから起源を発していると考えてもあながち間違ってはいないだろう。
(参考:imago [特集:境界例] 1990 、他。)
(これは暫定的な解説です。”境界例概念の歴史的変遷を把握しており的確に論じられる方”の修正を歓迎致します)