咲きてとく 散るは憂《う》けれど 行く春は 花の都を 立ちかへり見よ また 御運の開ける時がきっとございましょう。 とも書いて出したが、 そのあとでも他の女房たちといっしょに悲しい話をし続けて、 東宮の御殿は忍び泣きの声に満ちていた。 一日でも源氏を見た者は 皆不幸な旅に立つことを悲しんで惜しまぬ人もないのである。 まして常に源氏の出入りしていた所では、 源氏のほうへは知られていない長女《おさめ》、 御厠人《みかわやうど》などの下級の女房までも 源氏の慈愛を受けていて、 たとえ短い期間で悪夢は終わるとしても、 その間は源氏を見ることのできないのを歎《なげ》いていた。 世間もだれ一人今度の当局者…