【夜は短し歩けよ乙女:森見登美彦】 ひゅーんひゅーん。 ひゅーんひゅーんと冷たい風が、頬の横をすりぬける。 深夜1時半。 オレンジ色の街灯に照らされた静かな坂道を、ブレーキをかけずに一気にすべり降りる。 両思いであっても、片思いであっても 好きな人に会いにいく夜というのは、どうしてあんなにもツヤツヤと光り輝くのだろうか。 もうあと何分かで会えるというのに、これからするかもしれない会話や、あの時のあれ聞いてみようかなとか。相手の顔とか、仕草とか。 いろんなことを脳内に膨らませながら、ゆっくり大きく息を吸い込むと キラキラとした夜の空気が、肺にパラパラ降りつもる。 あの、感覚。 あれをもっと色鮮や…