古来、豊後海部郡に棲んで来た人々は海や陸を自由に行き来した人々であったが、江戸期には厳然として領民である事を強いられ、ほぼ他所へ移動する事なくこの地で自らの手で暮らしを立てざるを得なくなった。在方(農村)、浦方(漁村)、城下(町人)、それぞれに如何に生活手段を確保したのであろうか。本来、中世の暮らしを研究したいのであるが、まずは江戸期の暮らしを大日本物産絵図(1877、歌川広重)を参照しつつ俯瞰してみたい。意図はこの地が諸国と同じ物産を産出し得たか、それで食えたか否かを見ることにある。 海部郡の特長は岬と入江が複雑に入り組む長い海岸線を持っている事、一方、平地が少なく山岳地帯の占める割合が豊後…