六月二日。その日は新大納言成親流罪の日である。 都を逐《お》われる日なので、特に許されて、 客間で食事を饗せられた。 さすがに万感胸に迫ってか、 成親はろくろく箸《はし》もとらなかった。 するうちに早くも迎えの車がやってきて、早く早くとせきたてる。 成親は後髪を引かれる想いで車に乗った。 「もう一度だけ、小松殿にお逢いしたいのだが」 といってみたが、許されるわけはなく、 囲りはものものしい武装兵ばかりがびっしりと取り囲み、 一人の縁者、家来の姿もない。 「たとえ、重罪で遠国に流されるにしても、 一人の家来もないとは何と心細いことか」 成親が、車の中で、そっとつぶやくのを耳にして、 守護の家来も…