国立劇場は『義経千本桜』の通し上演。全体を三部にわけて、主要な忠信、知盛、権太の三役(源九郎狐をべつに数えれば四役)のすべてを尾上菊之助が演じるという企画。新型コロナウィルスが拡大しはじめた二年半前に中止になり、残念ながら無観客の映像収録のみとなった企画のリベンジである。まったく要求される技術もニンもことなるこれらの役を演じわけることができるのは、ほんのひと握りの限られた役者のみ。二年半という時とともに菊之助がますますその芸に磨きをかけ、ひとまわりもふたまわりも充実した舞台を見せてくれる。 まずはAプログラムから。 「鳥居前」の前半部分は筋をとおすだけになりがちだが、今回はなかなか充実している…