一匹獅子:子母沢寛 1956年(昭31)1月~12月、雑誌「小説俱楽部」連載。 1956年(昭31)同光出版社刊。 江戸の町中に住む蘭方医元応宛てに長崎のシーボルトからもたらされた秘薬の争奪戦が物語の中心となる。表向きは幕府の禁制となっていたが、御典医岩村は金づるで巾着切陣十郎一味にその秘薬の横奪を命じる。蘭方医の味方が無役御家人の主人公新田長七郎である。彼に思いを寄せるスリの姉御お石も仲間を使って防戦に加わる。 一匹獅子:子母沢寛2 善玉が強すぎる点は、言い換えれば悪玉が弱すぎることになるのだが、物語の展開は安心感ゆえに締まりがゆるくなってしまう。江戸情緒や人情の機微には筆の冴えが感じられる…