存在の裂け目に佇む理性――サルトル『存在と無』を保守思想から照らす試み ジャン=ポール・サルトルの『存在と無』(L'Être et le Néant, 1943)は、現代思想における実存主義の金字塔であると同時に、20世紀における人間理解の地殻変動を告げる書物である。フッサール現象学とヘーゲル弁証法を踏まえつつ、彼は「人間とは自由である」という断定において、人間の存在を根底から揺さぶる思索を展開する。しかしこの「徹底した自由の哲学」は、ある種の急進的倫理へと接続され、しばしば戦後左派思想の源流ともみなされてきた。そうした通念のもとで、『存在と無』を「保守」の立場から読み解くことは、まるで異なる…