万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男 (夏の野山が緑の草木に溢れる中、わが子に白い歯が生えはじめてきた。) 「万緑」は王安石の「万緑叢中紅一点」が出典と言われ、この句によって「万緑」は夏の季語となりました。「万緑」は草田男の第三句集の題名にもなり、彼の生涯の代表句。我が子の歯が生えはじめるという発育ぶりと植物の緑を重ね合わせ、地上のすべての生命力が「万緑の中や」に謳歌されています。 さて、「万緑叢中一点紅 動人春色不須多」(「万緑叢中に紅一点あり。人を動かす春色は須らく多かるべからず)の方ですが、訳すなら、「一面の緑なす草むらに一つだけ赤い柘榴の花が咲いている。人を感動させる春の景色は多け…