いま何をしているのかしら。この頃、テレビで、脚色者としてちょいちょい、出てくる私の名を、彼は見てくれてるかしら。 青年ジルとアンヌ姫のように、私とアイツは、あそこで石になった。そうして三たび、私は目から鱗がおちたようにわかったのだが、アイツと暮らしているあいだ、苦労したとは思えなかったのだ。私は幸福だったのだ。 世俗の風が舞いこんだとき、その幸福は石になったのだ。五年たってやっとわかった。(田辺聖子『孤独な夜のココア』新潮文庫、1983) こんにちは。世俗の風は田辺聖子さん(1928-2019)が青春時代を送っていた頃よりも一段と強くなっているのではないかと感じます。世俗の風というのは「普通は…