消灯後間もなく舎監の眼を盗み、ベッドのわきにある机に鳥居と五十音を書いた紙を用意して十円玉を置く、通常は人差し指だが僕達は小指を軽く触れさせるだけでスルスル動き、鉛筆に持ち替えてこっくりさんに似顔絵をお願いすれば、器用に一筆書きで描き、あなたは女性ですねといった具合に相手が幽霊なれど親近感がわく。 ある晩3人でやるために同室のLを仲間に入れ、こっくりさんを呼び出して質問したのはいつものこと、問題はここからでLが自分のこめかみに両手をあてたのは耳のつもりだったか、口でピョンピョン云いながら兎跳びで部屋から出ていこうとしたのを、部屋の者総出で取り押さえたが、Lは身長が180センチほどあるから体重も…
これは1人暮らしで最期に住んだ物件なり、夕方犬を散歩させるには少し早い時間だったのでパソコンを立ち上げて心霊サイトを渉猟せしに、後に犬にハーネスとリードを付けて玄関を開けると同時に私のことを力強く引っ張るのはいつもの癖で、歩き始めて間もなく何故かリードがはずれてしまい、ハーネスとは金具で接続するからもし中途半端であれば玄関先のはず、頭にいくつも疑問符を浮かべながら取り付けて散歩を再開せり。 今度は月ぎめ駐車場に駐車してある車と車の間をまるで幽霊船の船員のごとくに、ボロボロの衣服に身を包んだ年齢不詳、性別不詳のセピア色した者が砂利道の上をすべるように私と犬の数メートル前を横切り、散歩前に回覧した…
最後は2LDでペット可のアパート、先ず愛犬の怖い話からいきましょう、この犬は玄関がとても気になるらしく、気配を感じれば寝ているときでも小走りで近づいていき、ドアと三和土の隙間に鼻をこすりつけて外の匂いをかいだり、威嚇するように吠えたりするのですが、実際にドアを開けて確かめたところで猫の子一匹ありませんでしたを繰り返す犬でした。 今度は不可思議な匂いのことで、夜帰宅して玄関のドアを開けると台所から甘い香りが漂ってき、香水や芳香剤の類は一切ないのに女性が好みそうな匂いがし、大家によれば私が契約する半年前に女性が住んでいたそうで、そういえばスイッチの下にかあいい丸文字の説明書きがありましたが、彼女が…
今度の物件は築5年の3LDKでした、引っ越し当日は洋室、台所、和室の順に解いた荷物を配置したあと洋室に戻ってみると、なぜか家電製品の表面におびただしき湿気が床に垂れる始末ぞかし、CDも例に漏れずケースの中でビショビショなのに家具類には一滴もついておらず、新しき生活に慣れてきたころに水滴どもは忽然と消ゆ。 更新せずに次の物件が決まるまでの不可思議は和室でおこり、この部屋では四方からの射すくめる視線とまつわりつく冷気が常態で、引っ越し当日の夜荷造りの都合で台所に寝ていると、和室で畳に衣類のすそをこする者ありてその者が時計回りし、壁の向こうはお隣の台所ですから音は自宅ならむ。 【追記】 この物件に住…