佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「その輝きをレンズで」は、東大寺二月堂のお水取りを切り口に、奈良への思いが綴られたものだ。佐伯は、テレビの企画や雑誌の原稿を書く仕事をしていた二十歳前後の頃、月に一度ほど関西に出張していたらしい。そしてその際は必ず時間を見つけて奈良を歩いたとのことである。明日香村にも足を運び、こういうところで暮らすのも悪くないと思ったそうだ。私もあの村に足を運んだ時は、住むには最高のところだなと思った。 さてこの随筆では、島村利正の小説『奈良飛鳥園』(新潮社、1980年)が紹介されている。これは、仏像などの文化財を撮影するために飛鳥園を創業した小…