南アルプスは欠点だらけだ――。 そんな誹謗中傷に、思いもかけず遭ってしまった。 甲州人として悲しまずにはいられない。 往昔の日本山岳会に、小暮理太郎という人がいた。 群馬の生んだ偉大な登山家、齢六つで赤城山を征して以来、山の魅力に憑かれた男。 地図にない路、どころではない。そもそも地図の存在しない未踏の山に次々挑み、これを征服、本邦登山史の発展に大きく寄与した功労者。 そういう彼が物した文に北アルプスと南アルプスを比較論及したものがあり、その内容がまた随分と北アルプス贔屓というか、南アルプスの不遇っぷりを強調してくれていて、白峰三山を仰いで育ったこの私の精神を、いたくヘコませてくれたのである。…