修身の時間に私語をする沼倉を叱り、立たせようとした貝島に、全級の生徒が「先生、僕も一緒に立たせて下さい」と言い出しました。 貝島は予想外の事態に「癇癪と狼狽の余り、もう少しで前後の分別もなく」怒号するところを、ベテランらしく自制して、沼倉を懲罰するのをやめました。 この一件があってから、貝島は「沼倉という一少年が持って居る不思議な威力について、内心に深い驚愕の情を禁じ得なく」なります。 十返肇 編『谷崎潤一郎名作集』 「少年少女日本文学選集13」(あかね書房, 1956年)より 貝島は「全級の生徒を慴伏(しょうふく)させて手足の如く使う」沼倉の秘密を、同じクラスに在籍する長男の啓太郎から聞き出…