1900年(明33)駸々堂刊。前後2巻。インド帰りの英国人技師と彼を恋い慕って密航してきたインド族長の娘、ヒロイン摩耶子の物語。原作者が明記されない英国の小説からの翻案だが、人物を和名に変えた以外はほぼ現地の地名で、風物・習慣の描写もそのままである。物語の鍵になるのが催眠術であり、その医学上の功罪を序文で深く言及している。文体はまだ漢文調だが、幽芳の魅力はその語り口の明白さと巧みさにある。箱入り娘同然の世事の経験に疎いヒロインが自らの機知や他者の善意で希望を切り開いていくストーリーは読書の楽しみでもあった。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は尾竹修明(国弌/国一=くにいち)だが…