(二作品のほか、「二銭銅貨」、「恐るべき錯誤」、「二廃人」などの短編の構想に関して言及していますので、未読の方は、ご注意ください。) 「D坂の殺人事件」と「心理試験」は、「二銭銅貨」で鮮烈なデビューを飾った江戸川乱歩が、満を持して世に問うた力作であり、名探偵明智小五郎が登場した連作小説でもある。そう考えると、まさに我が国における名探偵ミステリの起点、原点となる作品といえよう。 しかし、原点であるがゆえに、現代ミステリからすれば、単純で素朴ということになるかもしれない。なんといっても、百年前に書かれた小説である。洗練された技巧という面で、見劣りするのはやむを得ない。 それにもかかわらず、これら二…