八つ(午前2時頃)と思われるころ、西の倉あたりから焦げ臭い匂いとともに、パチパチ音がしたと思う間に急に火が噴き出し、倉は火の海となりました。南の倉には油が入っているから大変です。あれよあれよという間に、火は燃え広がり広い市場屋も母屋から倉まで全部灰になってしまいました。そればかりか家の中に寝ていた主人の四郎兵衛も奥さんも一人娘も召使いたちも、みんな焼け死んで、一人も助かりませんでした。 街道でも有名な百万長者の市場屋もあっという間に燃え広がった火事のために滅びてしまいました。 火事のあった夜更けに、気が抜けたようになって市場屋の倉の辺りをうろつくお玉を見たという者や「茶釜、返せ茶釜、返せ!」と…