1939年(昭14)春陽堂刊。タイトルの「両国の秋」は綺堂の作品中で情話集に分類される江戸期の男女の情愛のもつれを描いた中篇になる。春陽堂のこの一巻には、他に半七物の最後の四篇と共に半七の外典とされる『白蝶怪』の中篇が併収されていた。 『両国の秋』は蛇使いの見世物小屋を張るお絹が心底から思いを寄せる屋敷勤めの下級武士林之介との心情の機微や町人たちの生活感を達意の文章で味わい深く描いている。特に林之助がお絹の病気を気にしながらも、貧しい茶屋奉公の娘に次第に心が惹かれていく板挟みの心理など、立派な文芸作品として読み応えがあった。☆☆☆☆ 「半七物」も三十年ぶりに再読したが、文句なく堪能できた。特に…