好きな西洋近代画家はと問われれば、ロートレックだ。ゴッホでもルノワールでもない。 トゥールーズ一帯を領地とする領主の息子だった。貴族の家柄である。幼少期に落馬するなど二度の大怪我で脊椎損傷し、下半身の成長が止った。躰の三分の二が上半身という矮人である。貴族邸の跡取り美丈夫の可能性が塞がって、父親はさぞ落胆したことだろう。 パリへ出て、遊興の巷に身をひそめた。酒に溺れた。当時大盛況だったキャバレー「ムーランルージュ」に入り浸った。相手になってくれた女性といえば、踊子や歌手それに娼婦たちだった。細やかな思いやりから好かれはしたが、恋愛だの同棲だのに発展すべくもなかった。庶民には縁遠い地方貴族の御曹…