この十月に朱雀《すざく》院へ行幸があるはずだった。 その日の舞楽には 貴族の子息たち、高官、殿上役人などの中の 優秀な人が舞い人に選ばれていて、 親王方大臣をはじめとして音楽の素養の深い人は そのために新しい稽古を始めていた。 それで源氏の君も多忙であった。 北山の寺へも久しく見舞わなかったことを思って、 ある日わざわざ使いを立てた。 山からは僧都《そうず》の返事だけが来た。 先月の二十日にとうとう姉は亡《な》くなりまして、 これが人生の掟《おきて》であるのを承知しながらも 悲しんでおります。 源氏は今さらのように人間の生命の脆《もろ》さが思われた。 尼君が気がかりでならなかったらしい小女王は…