夏目漱石の作。初出:明治45年1月〜4月「朝日新聞」 「門」以後、約一年半の空白をおいて発表された。その間、修善寺で胃潰瘍のために吐血したり、5女ひな子が急死したり、入院生活を送ったり、さまざまな痛手が漱石をおそっている。「久しぶりだからなるべくおもしろいものを」と漱石は「緒言」に書いた。六つの短編と「緒言」「結末」とで構成されている。
彼岸過迄 (新潮文庫)
彼岸過迄 (岩波文庫)
彼岸過迄 (新潮文庫) 作者:漱石, 夏目 新潮社 Amazon 前半は謎が物語を引っ張る。額にほくろのある正体不明の男を調査するなんて、まるっきり探偵小説のノリだ。蛇の頭が彫られたステッキとか、文銭占いでの奇妙なお告げとか、怪しげな小道具も雰囲気を盛りあげる。先がどうなるのか気になって読み進めた。 後半「須永の話」からジャンルが変わったように感じた。ここからは須永と千代子、二人の心がテーマになる。理性の人須永と感情の人千代子は、お互い惹かれながらも一緒になることができない。その苦しさが書かれている。 * * * 「彼岸過迄について」という漱石の前書きの中に、次のような記述がある。 かねてから…
『彼岸過迄』は、夏目漱石の後期三部作と言われるうちの一冊だ。 実は高校を卒業したころに買ったきり、しばらく本棚の肥やしにやっていた。高校の教科書に載っていた『こころ』が好きで、別作品も読んでみようと思って買ったのだと記憶している。 しかし、もともと『こころ』を好きになった動機が不純であり(「先生」と主人公の関係にときめいていた・・・・)、本書にも勝手に萌え要素を期待して勝手に裏切られ、最初の数十ページで止まったままになっていた。なのでかなりしばらくぶりに、ふたたび開いたことになる。本作は、大学を卒業したばかりでまだ働き口を見つけていない敬太郎が、同じ下宿先の森本や、大学の友人である須永の話を聞…
(新潮文庫) 「彼岸過迄」(令和2年2月25日 100刷) 世間の片隅のロマンチック。ステーションの雑踏からの冒険。そうして、家族の風景へ。 遠くを見て、近くに目を向け、中に入り込んだ。 森本の洋杖。宵子の赤いリボン。千代子の島田髷。映像がまぶたに浮かび、残像となった。 啓太郎に、物足らない所と、仕合せな所。読者の、わたしの、物足らない所と、仕合せな所? 「行人」(令和2年2月15日 109刷) 大きな黒い眼の、心を病んだ娘さん。冷淡、魂の抜殻、直の個性。昔、結婚がかなわなかったことのほうが、目が見えなくなったことより苦痛だった女性。この作品のなかで、わたしの心に響いた声。そしてわたしの心に残…
ふわりと軽く 飄々と こんにちは風◯りです☺️皆さまいかがお過ごしでしょうか? 今日は何となく♪名著の紹介を✨ 『夏目漱石著書 こころ』 この作品、今はわかりませんが私が高校生だった頃は教科書にも載っていた作品になります📖 私が初めて読んだ夏目漱石の作品『こころ』✨ とにかく内容が衝撃的でした😨略奪愛・裏切り・後悔・自殺…そして、『精進する』と言う言葉を知ったのもこの作品でした。 今思うと教科書に載せるには過激な内容ですよね😅 もちろん教科書には本編(長編小説)の抜粋部分しか載っていませんでしたが、そこだけ読むと他の部分の内容が気になる💦 そして同じように感じたのは私だけではなかったようで、当…
297.『草枕』降臨する神々(1)――不惑の詩人 「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」 これは昭和19年、有名な太宰治『津軽』の書き出しであるが、この顰に倣えば太宰治本人も後年誰かに、 「中原中也三十一、中島敦三十四、織田作之助三十五、太宰治四十・・・」 などと言われるところであろうか。(年齢は数えによる。) 太宰治が亡くなったのは戦後である。戦後の民主主義の世の中では年齢は満年齢である。 そもそも人間の年齢を数えで表わすのは、人間を商品と見ているからで、勘定する側にとってはそれが簡便で合理的だからであろうが、1…
これは少し前に、そういう例そのものが話題になったね。 anond.hatelabo.jp例によって、下のツリーリプライ以上に、はてなブックマークがアンサーの集積所になっている。 [B! 増田] 3大「タイトル回収」といえば悪いが資料として(うちのブログ内で検索できるようにしたいので)コピペさせてもらうぞ。 そのコピペでの自分のコメントは こういうのを、英語で「 title drop 」というんだそうですね。 http://kaigaijumptsu.blog.jp/archives/cat_200597.html で知った。 kaigaijumptsu.blog.jpこれはウィッチウォッチ全体…
前に『門』(1910年、明治43年)で、中下級の公務員の夫婦に女中がいる生活について、現代の感覚からいうと少し驚いた事についてブログでふれました。 また漱石を読んでいて、『彼岸過迄』(1912年、明治45年、大正元年)を読んでいて、主要登場人物である須永は20代の大学出の高等遊民。彼は母親と住んでいるのですが、そこに仲働きと下女がいます。そして同じ頁で下女を飯盛と言い換えてもいます。漱石って、勝手な当て字をしたり、字を作ったり?もしますから、用語についても少し信用できません。 でもここでは仲働きは奥女中(奥向きの用事をする)と下女(勝手向きの用事をする)との中間の雑用をする職業名だと思います。…
290.『坊っちゃん』1日1回(12)――坊っちゃん最初で最後の嘘 第11章 天誅 (全6回)(つづき) (明治38年10月24日火曜~11月10日金曜/明治38年11月~明治39年3月) 6回 野だに貴様も沢山かと聞いたら無論沢山だと答えた (11月9日木曜~11月10日金曜/明治38年11月~明治39年3月) (P397-13/おれが玉子をたたきつけて) 山嵐は赤シャツを坊っちゃんは野だをぽかぽか殴る~7時下宿に帰って荷造りして出る~汽車で港屋へ~退職届を投函~山嵐と午後2時まで寝た~夜6時の汽船で出立~上京と後日譚 山嵐と一緒に暴行傷害という最初で最後の犯罪を犯した坊っちゃんは、そのまま…
288.『坊っちゃん』1日1回(10)――坊っちゃん最後の事件 第10章 祝勝会の夜 (全4回) (明治38年10月23日月曜) 1回 祝勝会に生徒を引率 (10月23日月曜) (P368-8/祝勝会で学校は御休みだ) こんな奴等と一緒では人間が堕落するばかり~早く東京へ帰って清と暮らしたい~日本人は皆口から先へ生まれた 中学生は意味もなくうるさい。そしてその動機は純なものではない。それがそのまま大人に成長したのがこの社会である。碌でもない世間の、その発生元が中学校である。 中学校への不満は『猫』でも散々ぶちまけられたが、『坊っちゃん』を最後にぴたりと止んだ。小説を(職業的に)書くことにより、…
『罪と罰』試論のための予備的考察〈2〉 鳥の事務所 【はじめに】 ①本稿は2022年1月13日に本サイト『鳥――批評と創造の試み』に更新した「『罪と罰』のための覚書」(鳥 批評と創造の試み: ドストエフスキーを読む (torinojimusho.blogspot.com))の続稿に当たる。今回タイトルを「『罪と罰』試論のための予備的考察」と改めた。そして、まだ途中である。続きが書かれることを本人も望んでいる。 ②ドストエフスキー『罪と罰』からの引用は原則として亀山郁夫訳(2008年-2009年・光文社古典新訳文庫)による。 目次 『罪と罰』試論のための予備的考察〈2〉. 1 10 余談から始ま…
279.『坊っちゃん』1日1回(1)――勘太郎ふたたび 恒例により『坊っちゃん』に目次を付けてみる。幸いにも『坊っちゃん』は11に章分けされている。これは『三四郎』13、『それから』17、『門』23に比べてどうか。1章あたりのページ数という観点から、バランス的には『門』がもっとも近いようであるが、『門』は新聞連載では全104回である。してみると『坊っちゃん』を新聞連載すると50回くらいになるのだろうか。 本ブログでも再三引き合いに出している、『坊っちゃん』と似たような分量の3作品、『彼岸過迄/須永の話+松本の話』全47回、『行人/塵労』全52回、『心/先生と遺書』全56回と比べてみても、『坊っ…
275.『坊っちゃん』怒りの日々(2)――怒りの裏側には「おれ」がいる その2つの詩的情景のうちの1つ目の、誰もが認めるターナー島の描写であるが、そのターナー島なるものを始めて世に紹介しようとするくだりからして、すでに美しい。 船頭はゆっくりゆっくり漕いでいるが熟練は恐しいもので、見返えると、浜が小さく見える位もう出ている。高柏寺の五重の塔が森の上へ抜け出して針の様に尖がってる。向側を見ると青島が浮いている。是は人の住まない島だそうだ。よく見ると石と松ばかりだ。成程石と松ばかりじゃ住めっこない。赤シャツは、しきりに眺望していい景色だと云ってる。野だは絶景でげすと云ってる。絶景だか何だか知らない…
連載ストップから1年半!あれからベタも沢山たまったので、ちょっくら復活してみるか。 問題 1 駅のコンコースの柱などにもよく設置されている、時間の経過とともに切り替わる電子看板のことを英語で何という? 2 原爆投下後の焼け野原にいち早く咲いたことから広島市の市の花にもなっている、葉っぱが竹に、花が桃に似ていることから名前が付いた植物は何? 3 アメリカでは「クレイジーグルー」という名前で売られている、東亜合成株式会社が販売する瞬間接着剤は何? 4 古代ギリシャの詩人ヘシオドスが「仕事と日々」という作品の中で書いた、人間が平和に暮らした時代区分に由来する、最も輝いた時代を言い表す言葉は何? 5 …
269.『坊っちゃん』聖典発掘(4)――生原稿116年目の真実(つづき) いらぬことだが最後に両者を直接比べてみよう。萩野の婆さんの会話の文章を順に比較して、虚子の加筆を経たと思われる表現を(漱石が自分で直したのかも知れないが)「現」、漱石のオリジナル原稿を「原」として、対比の一覧表を作成する。単独で「もし(なもし)」を付け加えているだけの箇所は、原則として省略する。戯曲ではないのだから(漱石は戯曲というものを書かなかった)、例えば九州の人の台詞に「ばってん」とか「ばい」が省略されようがフルに書かれようが、それはその作家の好きにしていい話であって、他がとやかく言うことではない。 Ⅰ 第7章(マ…
2022/02/17 夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」(新潮文庫) 1905年2022/02/15 夏目漱石「吾輩は猫である」(新潮文庫) 1905年2011/11/20 夏目漱石「坊ちゃん」(青空文庫)2022/02/11 夏目漱石「坊っちゃん」(青空文庫)-2 1906年2022/02/10 夏目漱石「草枕」(新潮文庫) 1906年2022/02/08 夏目漱石「二百十日・野分」(新潮文庫) 1906年2022/02/07 夏目漱石「虞美人草」(新潮文庫) 1907年2022/02/04 夏目漱石「坑夫」(新潮文庫) 1908年2022/02/03 夏目漱石「文鳥・夢十夜」(新潮文庫)-1 1…
過去に二回「猫」を読んでいて、いずれも退屈だったと記憶するが、今回の数十年ぶりの再読でも同じ。漱石の小説は全部(新潮文庫で入手できるものすべて)を読みなおしたが、「猫」がもっともつまらない。今回は「吾輩」が運動を始めると言い出したところ(半分あたり)でギブアップ。完読をあきらめた。 なので、感想を書く資格はないのだが、ともあれ気づいたことをメモしておこう。・時代は旅順陥落の前後。それにしては「苦沙弥」と猫のまわりには戦争の様子がない。彼らは新聞で戦況を知るばかりで、はるか遠くのできごととして自分には無関係でいられる。WW1の総力戦より前の戦争では戦場にならないかぎり生活への影響は少なかったと見…
// 参考サイト: 新宿区立漱石山房記念館 猫の命日には、妻がきっと一切の鮭と、鰹節をかけた一杯の飯を墓の前に供える。今でも忘れた事がない。 ただこの頃では、庭まで持って出ずに、たいていは茶の間の箪笥の上へ載せておくようである。 夏目漱石「永日小品(猫の墓)」より 今日、新暦の2月9日は私の敬愛する小説家、夏目漱石のお誕生日です。 中学時代の衝撃的な邂逅から十数年、今は彼のほとんどの著作に触れたとはいえ、まだすべての作品・講義録・手紙などを精査して自分の所感をまとめる地点までは到達できていません。 ですから、あまり得意になって漱石先生について語れるような身分ではないのです。 それでも2022年…