妙専寺の鷹丸という十一歳になる息子はね、親元で修行中の小坊主さんだったが、この三月七日、うらうらと霞が立つような良い日和だったもんで、兄弟子の荒法師の供をして、荒井坂あたりで芹だのナヅナだのを摘んで遊んでたそうだ。 おり悪しくこの好天に飯綱山あたりの雪解け水がどっと押出してきて、黒ぐろと逆巻く鉄砲水さ。板に蔓を巻きつけただけの橋なんぞ、揺れに揺れたことだろう。足踏みはずしてざんぶりと落ちちまった。 「お助け~、お助け~」 いく度か頭が見えたり手が見えたりして、叫び声も聞えたんだが、すぐに蚊の鳴くような声になり、やがて影も形も見えなくなっちまった。 村の衆を呼び集めて、暮れかけるなか松明をかざし…