1913年(大2)嵩山堂刊。前後2巻。江見水蔭の作品はこれまで活劇風の軽いノリのものを読んでいたが、これは少々異なった。母を亡くして後、気性の合わない継母との生活に苦しみ、家を出た10代の少年は銚子の漁村に住む乳母の許を頼るが、大人たちの貧しく醜い暮らしぶりを目の当たりにして、放浪の旅へと翻弄される。ふと田舎芝居の一座に救われ、娘役として雇われるようになる。タイトル中の「鏡」は母の遺品として所持し続けた物だが、女形役者としての自分の本性を暗示するようで、それが出生の秘密にも通じる感覚がある。しかし本来自分は軍人を父に持つ「剣」の血筋という自覚も打ち消せない。その二つの挟間で悩み続けるという一種…