作家の男は、アイデアが出ずに困っていた。 三日も机に向かっているのに、何一つ書けない。 取材を兼ねて、気晴らしに郊外行きのバスに乗った。 車窓の外では、灰色の雲が低く垂れこめている。 乗客は老人が数人と、妙に明るいバスガイドだけだった。 「皆さま、本日は“特別路線”地獄巡りツアーにご乗車いただき、誠にありがとうございます♪」 男は思わず笑った。 なんて冗談めいた演出だろう。 “地獄巡り”とは、観光地の名前にもある。 これをネタにしよう――そう思った。 頭の中でプロットを組み立て始める。 バスジャック事件。 乗客を守るために奮闘するバスガイド。 しかし彼女こそが地獄の案内人――。 「……いいじゃ…