耽美でやわらかな雨が降り注ぐ春の朝。茨城の笠間美術館で夫と交わした会話を思い出した。確か、ゴッホの生涯についてだったと思う。ゴッホは生前に絵が1枚しか売れなかったにも関わらず、絵を描くことをやめなかった。 夫は「絵を描いたり、文を書いたりする人って、何で書こうと思うか、全く分からないんだよね」と言った。うまく答えることができず曖昧に返事をして、時が流れた。それに対して解のようなものが、文豪の一生をたどると、暗がりに目が慣れてくるように、ぼんやりと見えてくる。 絵を描いたり、文を書くのに、理由なんてない。「他にやることがなかったから」と言ってしまうと乱暴にはなるが、そんなものだ。お金になるとか、…