長野市で発行されている評論誌『溯行』の最新137号が届いた。私にとってご恩ある雑誌だ。信州文界のご長老のお一人であられた滝澤忠義さんが他界されて一周忌とのこと。所縁あったかたがたの回想や証言を集めて、特集しておられる。私はついに、お眼どおりいたゞく機会を得なかった。 一九六〇年代後半から七〇年代前半にかけて、東京と長野にお住いのお二人の、同人雑誌先達に出逢った。おふたかたとも、同人雑誌を文壇へ出てゆくための足がかりなどとは、これっぽっちも考えてはおられなかった。べつに反発していたわけではない。大ジャーナリズムを背景とする文壇文芸と、みずからの志に拠って立つ同人雑誌とは車の両輪のごとくであって、…