中野好夫(1903~1985) 清富に限る。中野好夫はしばしば喝破したものだった。 清貧を尊ぶことを、とかく日本人の美徳または美意識のように云うが、本心は富裕でありたい。だが富はとかく腐にも濁にも汚にも堕しやすい。濁富と化すくらいなら、しかたなく清貧でいようか、というわけだ。 中野好夫は英文学者として東京大学の名物教授だったが、評論家・翻訳家として我われ下じもには近しい。「清富」の一語にも見えるとおり、硬直した先入観をマサカリで断ち割るかのような、眼も覚める箴言を繰出されたかただった。 『シェイクスピアの面白さ』というエッセイ集がベストセラーになったことがある。西洋古典についての噺など、高尚読…