幻視の起爆力をそなえた唯一無二の作家、残雪。この短文では主にその評価の変容について、限られた知識しか持たない筆者なりに追ってみたい。 ・ふたつの世紀をまたいで 日本で『蒼老たる浮雲』の単行本が河出書房新社から刊行されたのは1989年。1980~90年代において、一般の読書子の間で残雪の知名度は高かったとは決して言えないだろう。海外小説事情に精通している筆者の知人によると、残雪は中国での評価よりも欧米での評価が早かったという。多数の残雪作品の翻訳を手がけた故・近藤直子氏が作成した著作リスト*1をみると、確かにこのようにある。 1 1987年 黃泥街 圓神出版社 台湾2 1988年 天堂里的对话 …