道 自分が今歩いているそこが、標高1,000メートルのカルデラの崖の上だとは思えなかった。道は限りなく平坦。頭上を大きな樹々が覆って、のどかで快適な散歩道のようだった。この道を初めて歩いた者は誰か。遠く弥生、縄文の頃か。それとももっと遡って先史の時代か。私は夢想を試みる……。 その後、人が「峠」と名付けた尾根の窪みから次の窪みへと向かい、草をかき分け茨の藪を潜って、彼は一人で歩いただろう。森に棲む獣たちの唸りに怯え、手には枯れ枝と石で作った素朴な斧を携えて、旅人は何日も歩き続けたに違いない。すると急に目の前が開け、草の斜面が崖を伝って激しく落ち込んでいる。旅人にしばしの憩いがある。 眼下に踞る…