「日常の謎ミステリ」。そのジャンルの中では一番好きかもしれない。 刺激や衝撃を求めるには「日常」は物足りない。 けれど退屈な代り映えのしない「日常」にある謎こそ滋味は深い。 生きてゆくすべてが謎であり、そこにリアルに生きているひとがいる。 それが面白い、知りたいと思った時こそ人生を重ねた楽しみを知る。 そこに描かれる情景、光や影や雨音。 その職人芸で繰り出される文章に、読んでいる間中、空は光り、翳り、雨音を聞くことになる。 それはあまりにもリアルに。 名作中の名作「織部の霊」より本文を抜粋する。 円紫さんの出し物(落語)「夢の酒」を聞いたあとの「私」。 『建物の外に出て、妙だな、と思い、宵闇の…