森敦(1912年<明治45年>~89年<平成元年>)晩年の1987年に刊行された長編小説『われ逝くもののごとく』(1991年、講談社文芸文庫)を読んだ。山形県庄内地方を舞台にした叙事詩的な大作だ。 森の伝記を調べると、配偶者が庄内地方出身で、このため月山で一冬を過ごしただけでなく、鶴岡市近郊の漁村・加茂や酒田市近郊の漁村・吹浦にも住んだことがあるようだが、『われ逝くもののごとく』では、これらの土地と、そこに住むさまざまな階層の人々を絡み合わせ、第二次世界大戦中から戦後の農地解放までの激動の時代のうねりのようなものを言語化している。登場する人物は、上層階級よりもむしろ乞食、浮浪者、娼婦など、いわ…