時代の祝福 川端康成 そう、そう、私は地震の時に (関東大震災のこと) ずいぶん沢山の惨死体(ざんしたい)を見ましたが、同じように腸(はらわた)を飛び出して隅田川に浮んでいるのでも、私は人間よりも馬の死骸(しがい)に涙を流してやりました。 だって、人間は自分自身が作り出した都会だとか家だとかいう生活形式のために焼け死んだのだ。 いわば自業自得(じごうじとく)だ。 ところが馬は、馬自身の生活形式を人間の手に奪われていたからこそ死んだのじゃないでしょうか。 諸君は馬を笑うか。 人間の生活形式だって何かに強(し)いられてこうなっているのではなかろうかと、疑えば立派に疑えるのです。 ———こんなことを…