「智恵子のほんとの空」を見てみたくて、 安達太良山まで。 智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。私は驚いて空を見る。 桜若葉の間に在るのは、切つても切れないむかしなじみのきれいな空だ。どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。 智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に毎日出てゐる青い空が智恵子のほんとの空だといふ。 あどけない空の話である。 智恵子抄 あどけない話 (高村 光太郎 著) 安達太良山にある温泉は岳温泉(だけおんせん)の元湯、 『くろがね小屋』という通年営業の山小屋に、 こじんまりと小さい白濁硫黄の湯舟。 ここにたどり着くには……