・多和田葉子はカフカ(1883~1924年)、ベンヤミン(1892~1940年)、ツェラン(1920~1970年)を尊敬し、さまざまな刺激を受けている。 ユダヤ系のドイツ語作家である三人は、それぞれチェコのプラハ、ドイツのベルリン、旧ルーマニア領(現ウクライナ)のチェルノヴィッツで生れた。カフカは四十歳で結核死、ベンヤミンはナチスに追われスペイン・フランス国境で自死、父母を強制収容所で失っているツェランはセーヌ川に飛び込んだ。三人とも死後に名声を高める。 ・ハンナ・アレントは『暗い時代の人々』のなかで、ベンヤミンの《最大の誇りが「大部分引用句から成る作品を書くこと――想像しうるかぎりの気ちがい…