本格小説(上) (新潮文庫)作者:美苗, 水村新潮社Amazon(ネタバレ)水村美苗のような作家のことをどう考えたらいいのだろうか。彼女は何よりもまず、読者である。憑かれたように小説を読み漁っていた時期があったにちがいない。水村美苗の最初の小説『続明暗』は、夏目漱石未完の長編『明暗』を書き継ぐという蛮勇が振るわれている。「続きが読みたい」「なければ自分で書いちゃえ」みたいなことが起こるのは、読者の欲望に忠実だからである。 病は高じる。書きたい。でも、何を? 次に書かれたのは、その名も『私小説』。なるほど、日本近代文学を読み込み、内面化してしまった読者にとって、自然な発想だったかもしれない。本邦…